ちっちゃ子さんのお話その2
「特別な休日」


「えっ?」


食事も終わり、デザートを食べながら
次の土曜にお休みを取ったから、どこかへ行こうか。…と告げると
彼女は一瞬驚き、顔がほころぶ。

「本当っ!?どこ?」

どこが良いかな、と考えるように呟くと
彼女は椅子を滑り降り、古新聞をためておくビニール袋から新聞を抜き
パラパラめくって探し当てた記事を開いてみせる。

「ここ!ここが良いっ!」

渡された記事を読むと、リニューアルオープンしたテーマパーク…と言うには
そこまで規模の大きくない遊園地が新装したとの事。
規模はそこそこでも、グッズショップから絶叫マシンまで
おおよそテーマパークにある物は全てあり、人気のキャラクター会社と
共同で催すイベントもあり、そこが目玉のようだ。
ちょうどイベントも土日に開催されるらしく、彼女はそこへ赴きたいとのこと。
じゃぁここにしよう、それを聞いて彼女はパァッと笑みを広げる。

「やったァっ♪これ行きたかったんだっ!」

キャッキャとはしゃぐ彼女を見て、自分でも彼女のためにしてあげられることがあって
嬉しさがジワリとこみ上げる。良かった。




その日までは、こちらはこちらで普段通り慌ただしい日が続き
場合によっては休みが無くなるかも知れないという事態にまで…
さすがにそこは全力で断る。申し訳なさそうに、怒りを込めて断る(笑)
彼女は彼女で、その日着ていく服をこれかこれかと迷う姿を毎日目撃する。





そして当日。

(ぴりりぴりりぴりりぴりり)

眠い…うー…
目覚ましが鳴る中で、どよんと重い思考がぴくりと動く。




「もう、お昼過ぎだね…」


寂しそうな声が……
えぇぇぇええええええ!!!!!!!!!!

(がば!)



飛び起きた。鳥のさえずり。陽はまだ高くない。
意識が飛ぶ。ハッと我に返り携帯電話の時計を見る。
…………………8時前……………?


「はぁ」

小さなため息の方向を見ると、まだ寝巻き姿の彼女。

「本当にお昼過ぎだったらすっごい怒ってるよっ」

それでも何か楽しげ。

「朝ご飯はお家で食べるでしょー?」

台所へ向かった彼女の声がする。
朝から、少し、疲れた(笑)





二人とも寝巻き姿で朝食をとり、着替える。
そんな服あったっけ…と言う着飾り様に少し驚く。
こちらが普段着に毛の生えたような装いなので
どう見ても「某国の姫と従者」のようだ(笑)


玄関でも、磨かれた革靴に足を入れ
立ち上がる際に手を差し伸べ
参りましょうか、お姫様。なんておどけてみる。

「えへへ♪ …よきにはからえ?」

…なんか違う…と言うかどこで覚えた…
手を繋いでバス停まで。今回は混雑を考え、渋滞か満員電車かと言う時に
どちらがどれほど嫌かという前に、どれくらいお金がかかるかと言う事を
気にする彼女…しっかりしている…


開園時間に合わせて出る。車だと渋滞で遅れることもあるが
バスや電車はあまりそう言うことはない。
乗り換え時間も余裕を持って来ているので、急ぐこともない。


開園まで数十分で門の前に着く。既に開門待ちの行列が出来ていて
割と他人事のように思っていたら、服をクイクイと引っ張られる。

「私たちも並ぼっ♪」

グイグイと手を引っ張られて行列の最後に並ぶ。
最近では久しぶりの感覚である。並んでまで得たい物が無かった気がする。
彼女もよくこの行列で時間をもてあまさないな…と思って見やると
あらかじめ買っていたガイドブックを真剣なまなざしで見つめている(笑)
…しかしそれはすでに目を通していてあらかじめこういう順番でアトラクションを回ると
事前に決めていたのだが、それでも見たいものなのだろう。

「うーん…最初のは待たなくても良いかもだけど、
 少ししたら待つ時間とかお昼のこと考えないと行けないね〜」

すごい洞察力というか、計画力というか…
いや、でも本当に久しぶりだから、無理もない。
そして数十分後に門が開く。
係員が注意する声を、半ば無視するように彼女が駆け出す(笑)
私も、行くかっ♪



数時間後。



二人で、少し揺れるゴンドラに乗っていた。
観覧車の緑のゴンドラ。番号は33。
窓からは高くそびえるテーマパークの中心のお城が見える。

「〜♪」

アトラクションを駆け巡り、疲れた私にあわせて観覧車という訳。
彼女は片手にジェラード、私の食べたホットドッグはもう包み紙だけになった。



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「こういうの、久しぶりだね。 ありがと♪」


楽しかった?と聞くと、にっこり微笑んで。


「うん!すっごい楽しかった♪ えへへ♪」


よかった。本当に。
次はどこか自然の中とかも良いね、と話しかける。
森、海、山、河。

「夏になったら、河でお魚とりたい!」

沢遊びも良いなぁ。
なんて考えている間に1周が終わる。
係員がドアを開ける。


「次はねぇ…」


まだまだ終わらない今日。
苦笑いしながら、少し気合いを入れる。


いつもありがとう。


●おしまい●


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