大人っ子さんのお話その2 「海上にて」 |
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少しずつ港が遠ざかる。
船がかき分けた波しぶきが、遥か後方へ過ぎ去る。 「前の方行こうよ♪」 あちこち巡って、こちらは少しだけ疲れたのに 彼女はまだまだ元気そうだ。 「わ〜」 思ったよりも船の速度が速く、潮の香りを含んだ風が すぐに通り過ぎる。彼女の髪も風に合わせて舞う。 「ちょっと着込んで来てて正解だね♪」 動いたり食べたりの繰り返しで暑そうだったが 船に乗るなら一応、と上着はたたまずに着ていた。 「…疲れてる?」 心を読まれたかと思い「え?」とほんの少し驚く。 「やっぱり〜隠してもすぐに分かるんだからっ」 隠してるわけじゃないよ、と言い訳がましくならないように告げる。 「まぁ、それでなくても、私って無駄に元気だから(笑) でも休みたい時はちゃんと言いなよ?」 はーい、と気の抜けた返事をすると「もー」とわざとらしくむくれる。 こういう時間を持ったのは、お互いどれくらいぶりだろう。 もしかしたら、彼女にとっては日常の中でもそう言う時間として感じる事が あるのかも知れないけど、やはり自分としてはきちんと休暇を取って 旅に出るのは貴重な時間だと思う。 お互いにそこまで暇ではない生活なら余計に。 だから、この疲れも、髪に染みつく潮の香りも、 おろしたての服に付いたホルモンのタレのシミも(笑) 良い思い出になるだろう。 (ピピッ) 無邪気に風と戯れる彼女を携帯のカメラに収める。 ![]() ←クリックしてアクティブにし、再生ボタンを押して下さい 「風、気持ちいいね♪」 きっと彼女にとっても、良い思い出だろう。 それを共有できることは、とても幸せだ。 ●おしまい● |